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東京高等裁判所 平成7年(ネ)1428号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二四三万七九一三円及びこれに対する平成五年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表二行目から四行目までを次のとおり改める。

「 控訴人は、執行力ある公正証書に基づき建物の賃料債権に対する差押命令を取得した者、被控訴人は、右差押命令が第三債務者に送達された後に右建物に根抵当権の設定を受け、その物上代位により右賃料債権をさらに差し押さえた者であるところ、本件は、配当期日において配当異議の申出をせず、配当異議の訴えを提起しなかった控訴人が、配当を受けた被控訴人に対し、右配当に誤りがあるとして、被控訴人が配当を受けたことによって控訴人が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を不当利得を理由として請求する事案である。」

二  同三枚目表八行目から同四枚目表初行までを次のとおり改める。

「三 争点に対する当事者の主張

1  控訴人の主張

(一) 建物根抵当権設定登記前に建物の賃料債権の差押命令を取得した差押債権者は、単なる一般債権者とは異なり、差押命令の処分禁止効により、根抵当不動産の賃料債権から差押命令の請求債権の範囲内において優先して弁済を受ける権利を有する。右の差押債権者の地位は、右根抵当権者との間における弁済権の優劣関係においては、執行対象財産上に担保権(抵当権)を有する者の地位と何ら異なるところはない。したがって、当該根抵当権者が本来の配当額よりも多い配当を受けたために、右差押債権者が本来の配当額よりも少ない配当を受けることとなって優先弁済を受ける権利が害されたときは、右根抵当権者は、右差押債権者の取得すべき財産によって利益を受け、右差押債権者に損失を及ぼしたものとなる。配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され、これに従って配当が実施された場合においても、右配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく、右利得に法律上の原因があるとすることはできないから、右差押債権者は不当利得の返還を請求できる。

(二) 仮に差押命令の処分禁止効によって差押債権者の優先権を根拠づけることができないとしても、根抵当権の物上代位については、目的債権について根抵当権の優先権が公示されているわけではないから、目的債権を一般債権者が差し押さえれば、それだけで物上代位権は実体法上否定され、その結果、控訴人が目的債権につき優先して弁済を受ける権利を有することになる。

(三) 本件配当事案は極めて難解な問題が存在し、先例もないのであるから、配当期日に出席した控訴人にこれを気付かせ、配当異議及び配当異議訴訟を提起させることを要求するのは余りにも酷であり、控訴人が配当異議も述べず配当異議訴訟を提起しなかったことに落度はなかった。よって、具体的妥当性の観点から、右不当利得返還請求を肯定すべきである。

2  被控訴人の主張

(一) 建物根抵当権設定登記前に建物の賃料債権の差押命令を取得した一般債権者が右根抵当権者の物上代位権に優先するとしても、優先するのはあくまでも当該執行手続において当該根抵当権者に対してであって、右一般債権者は、執行対象財産の交換価値に対して実体法上の権利を有するものではないから、被控訴人に誤った配当がなされたとしても、それが当然に控訴人の実体法上の損失によるものとはいえず、控訴人の請求は不当利得の要件を欠くものである。

(二) 建物根抵当権に基づく物上代位権が当該建物の賃料債権に及ぶのは、当該賃料債権が建物の価値代替物であるからであり、右賃料債権は差押えを受けることによりその性質を変更されることはないから、一般債権者が賃料債権を差し押さえたからといって、その後に設定登記された建物根抵当権に基づく物上代位権が否定されることはない。

仮に被控訴人の右物上代位権が否定されたとしても、前記(一)のとおり、一般債権者は、執行対象財産の交換価値に対して何らの実体法上の権利を有するわけではないから、控訴人に実体法上の損失は生じていない。

(三) 控訴人は、いわゆる金融業者であるから、配当期日の重要性について十分認識していたはずであり、配当異議の申出にはなんらの疎明も要求されていないのであるから、配当異議の申出及び配当異議訴訟の提起の機会が与えられていた控訴人に不当利得返還請求権を認めないとしても具体的妥当性を欠くことはない。むしろ、不当利得返還請求権を認めないことが、配当異議の申出の時期及び配当異議訴訟の提起の期間を限定した民事執行法の趣旨に合致するものである。」

第三  証拠(省略)

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり改めるほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏五行目の「従って、」から同八行目末尾までを「そして、任意弁済においては、債務者が複数の債権者に平等弁済をせずに一部の者に多額の弁済をしたり、あるいは、債権のない者に対して給付をしたとしても、そのことが当然に少額の弁済しか受けられなかった者の損失によるものであるということはできず、少額弁済受領者が多額弁済受領者に対して不当利得返還請求権を取得するということはできない。これと同様に、執行対象財産上に何らの実体法上の権利を有しない一般債権者が配当手続において過少に配当を受けた場合も、過大に配当を受けた債権者に対して不当利得返還請求権を取得するということはできないというべきである。」と改める。

2  同枚目裏九行目の「なお」を「そして」と改める。

3  同五枚目表二行目の「右一般債権者が」の次に「当該執行対象財産の交換価値に対し」を加える。

二  よって、控訴人の請求を理由がないと判断した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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